産経の阿比留記者は、私が尊敬するネット上の先生の一人である。
今どきの新聞記者とは思えない見識を持ち、なにより日本を思う気持ちが書かせる政治や政治家への鋭い批判が魅力だ。私は数年前に彼のブログに出会い、そこから多くのことを学んだ。
その阿比留さんが昨日のエントリで、初めてTPPを取り上げている。賛成だとか反対だとかは明確に表明していないが、次の文章にはどちらかといえば参加したほうがいいというニュアンスがある。
TPPに一定の賛意や理解を示すと、よく「米国のポチ」であるとか、米国に取り込まれるという批判を受けます。まるで「踏み絵」のようで、なんだかなあと感じているのです。ただ、相手がある外交では常に最善は望めず、次善、さらにその次であっても選ばないといけないときがあると思います。
【物事をあまり単純化するのはよくありませんが、TPPについて】から (2011/11/19)
全文はこちら⇒http://abirur.iza.ne.jp/blog/entry/2480462/#wrtCmt
このエントリのポイントは、アメリカがTPPを対中国の政策と捉えているという点だ。それを中国側も知っていて、日本の政界にはかなりTPP反対の働きかけをしているそうだ。
確かにそういう視点もあるのかなとは思うが、民主党政権がそこまで考えているはずもないし、現在の日米関係は事前にそんな話が出来るほどうまくいってはいない。それに、別にTPPにからめなくても、政府さえその気になれば有効な手立ては他に有るはずだ。
コメント欄は予想通り賛成、反対が入り乱れている。一部のアンチを除いて普段は阿比留さんの意見におおむね同調する書込みが多いのだが、TPPとなると意見がまちまちになってくる。
産経新聞は何しろTPP推進一色である。ワシントン駐在の古森義久編集特別委員はTPP推進を強く主張しているし、円高デフレ不況のためのすばらしい処方箋を提案し続けている田村秀男特別記者も、声は小さめだが、賛成派だ。
社説では繰り返し推進論を述べているし、【正論】には当ブログで昨日取り上げた屋山太郎氏の『農業と心中のTPP反対は愚だ』という檄文も掲載されており、全紙あげてのキャンペーン中なのである。
先日などは、自民党の谷垣総裁の党内論議を急ぎたいという発言を【交渉参加に前向き 自民・谷垣総裁が発言 党内に波紋呼ぶ可能性も】と報じており、「何でそこまでやるのか」と首をかしげたくなる。
産経新聞は最近は復興や円高デフレ対策に対してまともな論調が多くなっている。もっとも、岩崎慶市客員論説委員のように、野田内閣の増税路線を支持している人もいる。当たり前だが、社内の意見が分かれているのである。
同じように、小泉構造改革を支持した人たちは、その後財政破綻論から抜け出した人と、岩崎論説委員のように財務省の言うがままの人に分かれた。
前者は増税は否定するが後者は当然増税派のままである。そして、共通するのはTPPには賛成する人が多いことである。TPPを外圧による構造改革だと考えているからだろう。
私はTPPを全面的に否定しているわけではない。中身もよく判っていないのに、「とりあえず交渉にだけは参加してみよう」というスタンスがいけないと言っているだけだ。
多国間の交渉に参加して、途中で抜けることなどほとんど不可能だからだ。
それに、もし阿比留さんの言うように、アメリカの中国戦略が絡んでいるのであれば、なおさら途中で抜けられないし、多国間の交渉のなかで日米の中国戦略を話し合えるはずもない。
どうしても中国戦略だというなら、事前にその戦略について日米間で話し合っておく必要があり、その前にとりあえず交渉に参加するという選択はないはずだ。
そして、一番肝心なことは、今後交渉したり国内の構造改革を進めるのが民主党政権であるということである。震災復興を増税でやろうとするようなとんでもない連中に、そんな大事なことを任せて大丈夫なはずがない。
日本国民はマスコミのあおるイメージにのってあの「政権交代」を選択した。そして、その結果が現在の惨状である。だから、私たち国民は、「農業再生」とか「農業と心中」などといったイメージ戦略に騙されて、同じ過ちを繰り返すべきではない。
産経新聞は全社の力を結集して情報を探り、まず事実を読者に提供することを優先するべきだ。
そして、その事実に基いて堂々とオピニオンを発表することがメディアとしての役割ではないか。
現在のように事実の報道より主張を優先し、「TPP参加ありき」のイメージキャンペーンをやっているようでは、ますます読者離れが進むだけだ。


by akira
新自由主義は保守か?それとも…